「オイ!時間だぞ!!衣装着たか?!!」
アユムが駆け込んだ体育館には水色と白で構成された新撰組の衣装に身を包んだ
すみれ荘の生徒で溢れていた。

外は快晴。
一ヶ月に及ぶ準備期間を得て、今本番一日目を迎えようとしていた。

一般公開される開成の体育祭(開成祭)は朝からすでに外部者でにぎわっていた。
近隣の女子高生や遠方の家族ががこれでもかとおしよせる。

「おふくろ来るんだよなぁ…」
「いいじゃん。うちなんて今海外だからこないぜ」
「お前、彼女が見に来るんだって?」
「はい。良いとこみせないと!!」
「ま、あんま力んで失敗するなよ」

ワイワイと騒がしい生徒の合間を縫ってアユムはステージ脇で羽織を着る進に近づく。
「どうだった、外」
最後に鉢巻を巻きながら進はアユムに視線だけを向ける。
「ほどほどな。年々女の子の割合が増えてる気がするけど」
「そうか。よし…。オイ!!」
進の声に今までざわついていた生徒が一斉に静まり返る。
「そろそろ時間だ」

「はい!!!!!!!!」


―― 各チームの皆さんはそれぞれの入場門前に集まって下さい。
     繰り返します。間も無く行進が始まります。 ――





舞台が組まれた校庭には、入場門が3箇所用意されている。
それぞれのチームの入場門だ。
すみれは和門、さくら荘は中国をイメージし、つばきは海賊をイメージしてどくろや剣をあしらっている。
それぞれのチームの衣装に合わせた作りになっていて、これもまた凝っていた。

「そろそろですか?」
黒い衣装に所々銀で装飾された貴族風の服、さらに腰には模造品の剣をさしてある。
そんな衣装に身を包んだ啓介は、自分たちの控え室になっている主館の1Fの教室から
校庭を見てそう呟いた。
後ろで衣装のボタンをとめながら、荘平が「あ?あぁ」と握った返事を返す。
「これ…窮屈だな……って言うか、お前早く着替えろよ!!!」
その言葉は自分の前で衣装を持ったままたちつくす雄二に向けられていた。
「…ど、どうしても着なくちゃだめか………俺、こういうのはちょっと、なぁ…」
戸惑いながら、自分が両手で抱えた衣装を見つめ首をかしげる。
その表情は申し訳なさと、時間に終われているのとで青ざめていた。
「似合うと思いますよ?」
「……」
慎一郎は白、壮平は赤、雄二は青の衣装が手渡されていた。
貴族風の衣装を着るのは代々の生徒会の伝統で、この衣装は受け継がれている。
「とにかく着ろ!往生際が悪い!!安藤を見習え!!!!!っていうか、俺たちは3チームより先に出なくちゃいけないんだよ!!まにあわねーだろ!!!!」
壮平にゲシゲシと蹴られながら隣の部屋に押し込まれる。
それと入れ違いに腰に剣を指しながら慎一郎が白い衣装で現れた。
啓介の目が思わず笑顔になる。
「似合うよ、慎一郎」
慎一郎は露骨に不愉快そうに眉をしかめた。
その表情を見ても啓介の笑顔は変わらず、慎一郎を見つめる。





各門にそれぞれの衣装を来たチームが集合する。
中央に設置されたさくら荘の門の一番前に生徒会が陣取る。

―― 生徒会の入場です ――

若く黄色い声援がギャラリーからワッと上がった。
さくら荘の門が開き、啓介を筆頭に4人が姿を現す。
「今年の生徒会かっこいいね!!」
「レベル高い!!」
雄二は諦めた様子ですでに堂々としていた。
4人は啓介を先頭にしてグラウンドの真ん中まで歩き、教師陣のテントを背にして
振り返った。
啓介の後ろに3人が立つ。
慎一郎、雄二、壮平が剣に手をかける、そして引き抜くと空につき上げた。
続けて啓介も剣を引き抜き、空へとつき上げる。
それを合図にアナウンス班が各チームの入場を告げた。

寮長、副寮長を先頭に各チームが一斉に入場する。

つばき荘は眼帯をしていたり、髪の毛を染めてみたりサーベルやモデルガンを腰に下げ
海賊の衣装に身を包んでいる。
運動部系を中心にバック転などのパフォーマンスを入れながら入場する。

さくら荘は中国始皇帝時代の衣装に身を包んだ寮長・副寮長を先頭に
剣やナギナタ、などを手にした生徒が後に続いた。

最後に現れたすみれ荘は、紅一点の和装に身を包み、頭には鉢巻き。
腰には刀。草履がグラウンドの砂を踏むたびにジャリっと音が鳴る。


それぞれのチームが生徒会の前に並ぶ。
生徒会は掲げていた剣を下ろし鞘へと締まった。

――― 全チーム、入場完了です。
         これより、開会式へと移ります ―――