開成祭までの準備期間の間、それぞれのチームの中身は極秘とされ
鍵がかけられる準備室がそれぞれに与えられる。
そのチームのメンバー以外は、そこは絶対的に立ち入り禁止とされた。
入れるのは、生徒会の人間のみ。


「っしょ!でけた♪」
すみれ荘に与えられた準備室は体育館。
その体育館のステージの上でなにやら書いていたアユムは勢い良く立ち上がった。
チームメンバーに指揮を取っていた進が振り返り、ステージの上を見上げる。
「出来たか?」
「出来た出来た」
るんるんで階段を下りてくるアユムから数枚の紙を受け取り、ステージによりかかりながら目を通す。
「若干の誤字脱字が目立つが…まぁ、いいんじゃないのか」
「悪かったな!」

「大野先輩」
数人の1年が進の前に駆け寄りまだクリクリと中学生だった雰囲気を残した目で見上げた。
「全員の採寸終わったんで買い物行ってきたいんですけど」
「あぁ、そっか…そうだな。じゃぁコレ財布。落とさないように」
「はい」
ペコリと頭を下げた1年は入り口付近で待つ上級生に駆け寄って行く。
「あ!おーい!!!」
何かを思い出し、急いで呼びとめる声に走っていた1年は振り返った。
「領収書を必ず貰ってきてくれよ!!!」
「あ!わかりましたぁ!!行ってきます!!」
ひらひらと軽く手をふり衣装班の買い物を見送った。

「じゃぁ、コレどうする?」
アユムがすでに進がもっているその数枚の紙を指して問う。
進はそんなアユムを横目で見るとそのまま腕組みをして更に深くステージによりかかった。
「じゃぁお前がもって行くか?」
「・・・。よし、分かった。おーい、関谷!」

「呼ばれてるぞ」
「……」
柚木は無言で立ち上がると手に持っていた釘とトンカチを足元に置いた。
ムスッとした顔でアユムと進に近づく。
「なんですか?」
「…うわ、可愛くない……。お前ね、もうちょい可愛い顔できないの?」
「面倒な仕事を与えられると分かっていながらそんなもん出来ませんよ」
「わかってるじゃないか」
進の笑顔に柚木は大きなため息を漏らす。
「で、なんですか?」
そしてもう一度同じ質問をした。



「…なぁ、何で俺たちまで行くの?」
久遠が「ま、息抜きにいいけど」と付け足す。
だが創始は釈然としないらしく、主館の螺旋階段を登りながらブツブツと文句をたれていた。
「お前、意外としつこいね…」
「あのなぁ。それだけだろ?その紙を、生徒会に持って行くだけなんだろ?
お前だけでいけよ」
「まぁ、付き合えって。俺、生徒会苦手なのよね」
ニヘっとキレイな笑顔を見せられ、創始は「はぁ」とため息を漏らした。
「いいじゃん。生徒会何かお菓子ないかなぁ」
久遠だけはたまに生徒会に置いてあるお菓子を狙っているようだ。



「どもーお邪魔します」
ノックもせずガラっとドアを開けるとすでに先客が。
「あー!!!すみれ!!!」
さくら荘の生徒らしく、柚木たちを見るや否や持っていた紙を背中に隠す。
「あのなぁ…みねーよ」
「じゃぁ君たちも持って来たの?」
ニコニコと啓介が声をかける。
柚木は一言「はい」と返した。
「言っとくけど、今年うちは二連覇を狙う」
啓介に紙を手渡したさくら荘の生徒がくるっと振り返り、指をピースにして柚木たちの前に突き出した。
「ほほぉ。去年最後のリレーでうちのアンカーが腹さえ下さなきゃうちの優勝だったんだけどな」
「悪いが、今年の一年には陸上のホープがいる!」
ふふふふふふ。と不気味に笑いながらさくら荘の生徒は生徒会室を出て行った。
「そう言えば、今年の陸上部の一年は大半がさくら荘にいるらしいぞ」
創始の言葉に柚木がニヤッと笑う。
紙を持ってないほうの手をジャージのポケットに突っ込んで「ふふふん」と鼻で笑った。
「それくらいのハンデ、ちょうど良いだろ?」
「…負けず嫌いだなぁ、お前ってホント」

「お話の途中悪いんだけど、貰って良いかな?」
ハイっと笑顔で手を指しだす啓介に割って入られ2人は会話をとめた。
「すみれは、コレで行くの?」
「はい」
「ふーん、和風だねぇ」
ニコリと笑って「はい、わかりました」と紙から視線を上に上げた。
「なぁ、話し終わった?」
そこに今まで黙っていた久遠が口を挟む。
「会長。あのさぁ」
ニコニコと笑いながら久遠は啓介に一歩近づく。
「なんですか?」


「久遠、自分ばっか食ってないで一枚よこせ」
体育館への帰り、久遠が手に持つ箱から一枚クッキーを取った創始がそれを銜える。
「なvやっぱあっただろぉ♪」
「箱ごとくれるなんて、気前良いな」
一番甘くなさそうなのを手にとって、柚木が呟くのを聞いて「会長だからねv」と久遠が笑顔で返した。




「ただいまぁっと」
はぁ疲れた。と右手を首に沿えコキコキ左右に動かしながら入ってきたのは
副議長の壮平。
その後ろから「お前なにもやってないだろ」と呟いた雄二が続いて入ってきた。
それと同時に資料室のドアが開き、慎一郎も顔を出す。
「なんだ、隠れてたの?」
出てきた慎一郎を見てニコリと笑うものだから慎一郎の癇に障る。
「…うるさい」
「あははは。そう」
「そんなんだから安藤に嫌われるんだぞ、お前。で、何見てるの?」
「全チーム報告書が届きましたよ」
啓介は見ていた3チーム分の報告書を「はい」っとパソコンなどが乗っている長机の上に投げて置いた。
そしてそのままソファーに移動し、いつもの定位置である角の奥に深く腰を下ろす。
「中々個性が出てますね」
「すみれだけ和風か」

「はい。新撰組でいくそうですよ」