以上で、臨時放送を終わります。 ―


「…」
「……」
「………」
学食で昼食を取っていた3人は天井を見上げたまま動きを止めた。
いや、3人だけでなく学校内にいる制と全員が、と言ったほうが的確だろうか?

別館1Fにある学食は広い。
所々赤い円柱が床から天井に向かって数本立っている。
それが学食のシンボルとでも言おうか。
その赤い円柱の周りにはいくつものテーブルと椅子が置かれていた。
円型のテーブルに5個の椅子で1セット。
中庭に面して壁一面に大きな窓があり、ブロック調の床は外にまで続いている。
そこにもいくつかテーブルが置かれ、天気の良い日は早い者勝ちで陣取るのだ。
その食堂はこの時間いつも賑やかだ。
だけども、今日はいつもよりも賑やかさを増していた。

「召集、早かったな、今年」
赤い円柱のすぐ下のテーブルで食べていた3人は再度箸やスプーンを動かし始めた。
「色々決めるんだろうなぁ、今日…」

「いたー!!!!!!」
ダダダダっとテーブルとテーブルの間を走ってくる人影に気づくと「おー」と軽く手を上げた。
走ってきたのは新平。その後ろをお盆を持って聖がゆっくり歩いている。
当たり前のように空いた席に座った新平はずいっと身を近づけた。
「お前ら、食ったら行くだろ?」
クイクイっと天井を指す。
「行かなかったら大野先輩にどんな嫌がらせやれるか…」
「さくら荘が、すみれに闘志を燃やしているらしいです」
一足送れて席に着く聖がゆっくりとした口調でそう言った。

ピンポーンパンポーン ピンポーンパーンポーン

ピクッ…

予想外の放送のチャイムに全員が反応する。

『さくら荘寮長、湯浅です。さくら荘生徒は先ほどの放送でもあったように
昼食後…13時半、に体育館に集合してください。
購買部で一冊開成祭用のノートを買うこと。以上です』

「…湯浅さん、相変わらずまじめだなぁ……」
創始がボソリと呟く。
「こりゃ、今年もきっちり仕上げてくるな」
「ですね」

『つばき荘寮長根岸だ。つばき荘は講堂に13時半。団体行動での遅刻のいい訳は
一切聞かないのでそのつもりでいるように。集合に当たって必要だと思うものを持参。
以上だ』

「去年ビリですから、ピリピリしてますね」
「お、オイ!こんなところで言うな…!!」
柚木が聖の口を慌てて押さえる。
その周りではつばき荘の生徒がじーっと二人を見ていた。
「でも、つばき荘は寮長がスパルタだからなぁ…」
「うん、今年は来るね。つばき」

『すみれ荘寮長、大野進。すみれは屋上に13時。以上』
『遅刻したら罰ゲームだぞ★』

ガタガタガタ!!!!!!!

いたるところで椅子が引かれる音がした。
みると全てがすみれ荘の生徒だ。
だが、それはどれも2・3年のものだった。
1年は状況についていけずポカーンとしている。

「今何時だ?!!!」
「50分…」
「なにぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「食え!早く食え!!!」

「…くそ…やられた…」
5人も大きなため息と同時にお盆を手に立ち上がった。
椅子を引かれる音が消えると、立ち上がった生徒はみなお互いを確認する。
そして一斉に動き出すと、カウンターへと急いだ。
「おばちゃんごめん!時間なくて全部食べれなかった」
「いいよぉ〜進ちゃんたちだろ。あんたたちも大変だねぇ〜」
開成祭の時期と言う事と先ほどの放送で状況を察していた食堂のおばちゃんたちは
慌てふためくすみれ荘の生徒を見て声を上げて笑った。
「分かってくれる…うぅぅぅ…」
「泣くなら走れ!」
「おばちゃん、ごちそうさま」

学食から3分の1の生徒が溢れ出る。
「オイ!1年も急げよ!!!」
3年の1人がそう言い残し、彼らは別館の階段を猛スピードで駆け上がって行った。
残された1年はイマイチ状況がつかめないままそれに続く。




「さーて。誰が一番のりかなぁ♪」
放送室からさっさと出てきた2人はそのまま屋上へと向かう。
「ま、うちの寮生に限って遅刻はないだろ」
「…どっからくるんだ、その自信」
「教育の賜物だ」
隣でニヤっと笑う進を見てアユムは背筋にゾゾゾっと走る何かを感じていた。

屋上への思いドアを開け、青空が広がる外へとでると、2人はまっすぐフェンスに近づき
背をかけるようにしてしゃがみ込んだ。
しばらくすると「ドドドドド…!!!!」っと言ういくつもの足音が響きだす。
「来た来た」

バン!!!!!

大きな音と共にドアが開く。
そこには息を切らした何人もの生徒がいた。
「いやー意外と早かったな」
同級生だったらしく、アユムは拍手を送りながら「いらっしゃ〜い」と笑う。
3年生は息を切らしたまま2人に近づき、そしてそのまま力尽きたように膝から崩れ落ちる。
「お…お前ら……何でうちだけ13時なんだ……」
「遊びすぎだぞ…!!!」
「だってぇ〜こうやって皆が素直に聞いてくれるから嬉しくってv」

そうこうしてるうちにゾロゾロとすみれ荘の生徒が屋上へと集まり始めていた。



「…」
点呼を取るアユムの横で進がゆっくり立ち上がる。
「揃ってるみたいだぞ」
「うん。あー適当に座っていいよ」
ハイハイ座ってーとアユムが両手を上下させる。
それに合わせて寮生は腰を下ろし始めた。
「こういうとき講堂っていいね。ま、良いんだけど。
今日は、応援団と、各班の振り分け…出来たら競技まで行きたいけど…」
うーん。と、進は唸りがら右手で持つ生徒会から渡されたアンケートのコピーを見ながら
左手で前髪をかきあげた。
「時間的にどうかな………今日、バイトとか入れてるやついる?」
座った寮生の大群の中からチラホラ数名手を上げていた。
「帰るとき声かけろよ。黙って帰らないように」

「さ、じゃぁ。応援団から行くか」
進は面倒くさそうに大きなため息をついた。