コンコン

軽くノックされる音がして「はい」と言う返事が聞こえると
ドアはすぐに開けられた。

「2Cです。開成祭のアンケート持ってきました」

ドアを開けると、目の前には机が置かれ、右奥には簡単な応接セットみたいなものが置かれていた。
隣の部屋に続くドアも見える。

「ごくろうさん」
パソコンをいじっていた上級生が椅子を半分回転させて正面を向いた。
左腕には「生徒会」の腕章をつけてある。
その「生徒会」の文字の下に小さく「副議長」と書かれていた。
「じゃぁ、コレ。今日出席の全員分です」
2Cの委員長は持ってきたアンケートの束を差し出した。
「はい。えっと…欠席は何名?」
「2人ですね。あ、今日必要ですか?」
委員長の言葉に副議長である平河壮平は顔を上げた。
「いや、いいよ。来てからで良いから」
ヒラヒラと手を上下に振り、早く帰りなさいよ。といわんばかりの
そっけない態度を取る。
「はい。失礼します」
「ごくろうさん」
軽く会釈をして2Cの委員長は生徒会室をあとにした。

壮平は集まったアンケートを束ねると席を立った。
隣の部屋へつながるドアを2、3回ノックする。
ドアを開けると隣は資料室らしく、いくつもの棚が置かれていた。
「伊達?おい、伊達」
「ん??」
一番奥の棚と壁の間から顔を出した啓介はいくつものファイルを抱えていた。
「そろったぞ」
壮平の手に持たれたアンケートの山を見て、啓介は嬉しそうに「おっ」と声を上げた。
ニコニコと笑顔で近づいてくる。
「じゃぁ整理しようかな」
資料室を出た啓介に続いて壮平も出る。
「そのファイル、なんだよ?」
「これ?ココ5年間の開成祭の資料ですよ」
ヨシショっと応接テーブルの上にファイルの山を置いて、自分は壮平に近づいた。
「はい、どうも」
笑顔でアンケートを受け取る。
クルリと向きを変えると、啓介は応接のソファーに腰を下ろした。
それを見送った壮平もパソコンの前に座りなおす。

「なぁ、ところで」
「ん?」
「何で、ココには俺とお前だけなの?」
啓介はアンケートから目を離さず「んー」と答える。
「児玉君は、各寮長のところ回ってもらってます。ちょっと伝えてほしい事があったので。
2年は後できますよ」

「ふーん」
そんな壮平の返事のあと、生徒会室ではしばらく無言での作業が進む。
1クラス1クラスとアンケートを確認した啓介が、それをクラスごとにファイルして
そのファイルを壮平に渡す。
壮平は各学年各クラスの名簿を開き、そこにアンケートに記入された内容を
打ち込んで行く、緻密な作業を繰り返していた。
「あーちくしょー終わらね〜」
キーボードを打つ手を止め、背もたれに上半身をダラーっと預ける。
逆さまの世界を見るような角度で、壮平は啓介を見つめる。
「怖いので、その格好でこっち見ないでください」
その言葉に反応してグン!っと上半身を起こす。
「あーやってらんねぇ。コーヒー飲も…」
「あ、ポットお湯入ってませんよ」
「……」
「電気代節約だーと、先生方に言われたので、放課後以外は切ってあります」
マグカップに手を伸ばしかけていた壮平は動きを止め、背中で大きなため息をついた。
「購買部行ってきまーす……」

ドアに手を伸ばすと、手がドアにつく前に目の前でスライドされる。

「…ビビッた……」
「何やってんだ?」
立っていたのは議長で3Gの児玉雄二。
壮平よりも身長が高く、がっちりとした体格で、スポーツ系と言うのが
見た目だけで伝わってくる風貌だ。
「コーヒー買ってくる。お前いる?」
「あぁ、じゃぁブラック」
「オーライ」
両手をポケットに突っ込むと壮平は大きくあくびをかましながら廊下を歩いて行った。
軽く横目でそれを見送った雄二は中に入り、背中越しにドアをしめる。
そして、そのまままっすぐ啓介の方に歩き、向かいのソファに腰を下ろした。

「おかえりなさい」
ニッコリと微笑まれ、雄二はコホンと軽く咳払いをする。
「相変わらず人好きする笑顔だな…」
どうやらこの笑顔が苦手らしく、若干視線を外し気味に足を組んだ。
「どうでしたか?」
アンケートに目を通す作業を再開した啓介は一枚一枚と紙をめくりながら
静かにその言葉を雄二にかける。
「今日の午後招集かけるそうだ」
「場所の指定も?」
「あぁ。すみれが屋上、さくらが体育館、つばきが講堂な…ちゃんと伝えたよ」
「お疲れ様です。あ、これをそこのファイルに閉じてくれますか?」
見終わったアンケートの束を雄二の前に差し出す。
雄二は自分の目の前に置かれていたファイルを手に取り、啓介からアンケートの束を受け取る。
「ついでだから放送部長に昼休み放送かけるよう頼んできたぞ」
その言葉にニコリと啓介が笑顔を見せた。

「助かります」