生徒会長、副会長が決まりがぜん盛り上がりを見せる生徒会選挙。
最後の選挙が一週間後に控えてたこの日も、ここ最近頻繁に発行される校内新聞を手に
校内をウロウロする生徒が目に付いた。
「残りは議長、副議長、会計、書記」
それぞれの立候補者を見ながら職員室もその話題で持ちきりだった。
開成の教員は全部で50弱。
職員室での席はほぼ教科ごとにまとめられていた。
「いいですねぇ、今年の生徒会は」
出されたお茶を飲みながらニコニコと新聞を見る、彼・大阪晴海は
通路向かいに座る、生徒から長老と呼ばれる高峰重蔵に「ね?」と笑顔を向けた。
「一昨年がすごいワンマンだったからな」
高峰も面白そうにその新聞に載った名前をみつめた。
「会長に伊達、副会長に安藤…か」
「あ、それなんですけどね?意外でしたね〜伊達の推薦が安藤とは」
さすがの俺も…と大げさに肩をすくめて晴海は足を組みなおした。
「そうですか?」
そこに割って入ったのは、啓介の担任の森田だった。
「その2人は幼馴染なんですよ」
晴海の新聞を上から覗き込みながら2つの名前を交互に見た森田は
持ち主が席をはずしてて空席になっていた晴海の横の席に腰を下ろした。
「伊達は安藤が可愛くて仕方ないみたいですよ」
いじめている光景が浮かんだのか、森田は「ははは」と笑った。
「ま、能力的にもその抜擢は申し分ないでしょう」
「そう。ようは、彼らがどれだけ楽しく生徒たちの代表としてやっていけるかということ。
うちの生徒会は本当に生徒の代表だ。
生徒たちの信頼も必要だし、面白い企画を考える構想力、それを実行に移せる実行力。
それから、全ての仕事をちゃんとこなせるかどうか…」
高峰の言葉に「そうですねぇ」と若い晴海はうなずいた。
「ここの生徒会は忙しいですからね」



「まぁ、この2人は良いとして。あとの席はどうなんです?」
「議長に3人、副議長に4人、書記に3人、会計に2人の立候補者がいるよ。
まぁ、面白いのは書記と会計の吉川だな」
森田が笑うものだから、晴海は高峰と森田、両方の顔を交互に見た。
「同姓ですか?」
「双子なんだよ」
「双子…????」




「将〜」
「…」
呼ばれて振り返ったのは吉川将彦2−D。
少しぴっちりした制服をきちんと着こなし、髪は7:3でわけられている。
キリっと結ばれた口元と目は寡黙さを表現しているようだった。
だが、その頭がズラだと言うことは意外に有名な話し。
実は皆怖くて「ハゲ」と言えないでいる。
「智。どうした?」
そしてそんな将彦に走りよったのは彼の双子の弟である、智彦2−A。
将彦よりはニコやかで普通に周りの人間と付き合っている。
将彦同様ぴっちりめの制服をきちんと着こなしているが
規定のネクタイではなくネクタイと同じ色の細いリボンをしている辺り
個性が出ているのかもしれない。
彼はズラではなく地毛。その髪の毛は癖っ毛なのか、多少クルリンと巻かれている。
その髪を、智彦は将彦と反対側で軽めに7:3でわけていた。
「お昼行くなら一緒に行こう。あ、それと来週はとうとう僕らの番だね」
「うん」
長い廊下を歩きながら将彦は窓から中庭を見た。
「多いな。ほか行く?」
「うーん…屋上は?」
無言でうなずく将彦にニコリと笑いかけると二人は階段を使って屋上を目指した。



「キッチン借りて作ったんだ。どう?」
「うまい」
パクパクと食べてくれるものだから智彦は「だろ〜」と笑顔で笑った。

「…あれ?先客かな?」
声がして振り返ると知った顔が立っていた。
声の主は絶えぬ笑顔を見せたまま「お邪魔しちゃ悪いね」と向きを変える。
「あ、どうぞ!!かいちょ!!」
ピタっと動きが止まり、苦笑した啓介が振り返る。
「まだ、少し早いんじゃないかな?」
「今のうちに言い慣れておかないと」
啓介に負けない笑顔で智彦が答えると将彦も「うん」とうなずいた。
「どうぞ」
「あーじゃぁ。お邪魔します」
智彦の隣に腰を下ろした啓介は、朝コンビニで買ったおにぎりを取り出した。
「かいちょは食堂派だと思ってました」
「あぁ。普段はね。今は時期が時期だから食堂行くと新聞部につかまってね…
メニューが毎日載ってしまうよ」
クスクスっと笑う啓介を見て「はぁ〜大変ですね」と二人は声をそろえる。
「あ、そうだ。あの…僕たち」
「吉川智彦君だね?そっちが将彦君」
「新聞でご存知でしたか」
いや〜と頭をかく智彦に「いやいや」と笑う啓介。

「目をつけていた役員候補は、みんな覚えているよ」

「…うぇ?」
「是非君たちには当選を果たしてもらいたいな。待っているよ」

「はっはい!」









一週間後。
掲示板に押しピンを当てる人物が最後のピンを押し終えると数歩後ろに下がった。
見つめるのは、掲示板に並んだ「新生徒会役員」の顔ぶれ。
「よし」
きれいに横一線に貼られた事を確認すると、彼は事務へと消えていった。


生徒会長  伊達啓介(3−E)
生徒副会長 安藤慎一郎(2−E)
議長     児玉雄二(3−G)
副議長    平河壮平(3−B)
書記     吉川智彦(2−A)
会計     吉川将彦(2−D)


これが、今期生徒会の役員メンバーの顔ぶれ。
翌日、彼らには生徒会の腕章が与えられた。