3−E伊達啓介。彼は中々有名だった。
人当たりが良く笑顔を崩さない。
成績優秀、人徳有、教師陣のウケも良し。
誰とでもニコやかに会話ができる。
後輩や同級相手にも上から見下ろさずに、目上に話すのと変わらない喋り方。
そして、その笑顔とは裏腹に、実はかなりの毒舌であり
教師だろうが先輩だろうが上手いこと言いくるめてしまう話術を持っている。
彼は、見事なまでの策士だった。
だけど…特別親しくしている人間をほとんどの人が知らない。


「伊達!!」
玄関ホールに足を踏み入れた瞬間声がかかり、伊達啓介は振り返った。
小走りで近づいてくる友人の顔が見え、ニコリと穏やかな笑みを見せる。
「あぁ、おはようございます」
「おぉ」
並んで歩く友人は階段に向かう途中、横目で掲示板を気にする。
「…何?!!!」
急にでかい声を出すものだから辺りにいた生徒がほぼ同時に振り返る。
啓介は笑顔を絶やすことなく「うるさいですよ」と注意した。
「お…お…お前…!!!」
笑顔のままスタスタと歩き出す啓介をあわてて追いかけてきた友人は
なにやら恐ろしいものを見たような様子で問いかけてきた。
「立候補したのか?!!!!」
「えぇ」
「お前が?!!!」
「そう。他に立候補者いないみたいですね」
ニッコリとさっき以上の笑顔に、友人があごをはずしかけた。

お前が相手だからだ!!!

声にならない声で口をパクパク動かす。
「ま、そういう事です。清き一票をよろしくお願いします」
笑顔で、じゃぁ。と手を上げると自分のクラスへとさっさと歩いていってしまった。


授業中、シャープをくるくる回しながら思うは副会長の推薦枠。

……立候補者はもう今更来ないだろうな。
なんせ、選挙は3日後だ。って事は僕の当選は確実。
さて…と。

ピタっと回していたシャープがとまり、すっぽり手の中に納まる。
スラスラっと書き出した名前は気にかかっていた2,3年合わせて5名。

1人目の名前でシャープをとんとんと動かす。

彼は、文芸部の部長だったかな?
温厚で従順。成績も申し分ない。
ただね……決定力に欠ける。

シャッと名前の上に1本線を引いて消す。
シャープは一段下へと下がった。

すみれ荘の寮長。
天文部部長…幽霊部長だと先生が嘆いていたっけ。
裏を含んだ性格も、生徒会にもってこいだな。
だけど。彼もダメだ。
面倒くさいことは引き受けないだろう。(寮長は寮を仕切れるから別問題)

この調子で5個あった名前は次々に消されていった。
最後の1つを見て、うーん。と唸りシャープを机に置いた。
椅子にもたれかかるようにしてその名前を見つめる。
そして真顔は苦笑へと変わった。





声をかけてみようかな。