入学式が終了して、学校の顔ぶれも大きく変わった4月。
3年は卒業(注:若干名を残し)。
新1年は例年に負けず劣らず個性豊かとの評判だ。
灰汁が強く、色んな意味で人を巻くのが上手い新3年。
賑やかでうるさいことで有名のお祭り学年、新2年。
新1年の素性を楽しみにしつつ教師陣はそれぞれの学年のカラーの違いに花を咲かせた。

入学式が終われば毎年恒例の一種の戦争が巻き起こるのだが。
今年はあまり話題になっていないようで
ふと、その「戦争」を思い出した本編主人公の1人、関谷柚木は
学校到着後、話題になっていないその理由を目の当たりにすることになる。


土足でずかずかと玄関ホールに入ると目の前に掲示板がある。
左に曲がればL字の角にある螺旋階段が自分をクラスまで導く。
そのL字を更に進むと職員室や進路・生徒指導室、喫煙室がある。
左に行かず右に行けば事務だ。
掲示板の横には中庭に通じるドアがあり、噴水とベンチが置かれていた。
天気の良い日のお昼、ここで食べようとする生徒は少なくない。
中庭を突っ切りまっすぐ行けば専用教室、食堂、売店が入った別館がある。
本館と別館の行き来はこの中庭の横断か、2〜6Fにかけてある渡り廊下で往復する。

柚木はその掲示板を目の前にして足を止めた。
「……何だ、やっぱあんじゃん。生徒会選挙」
掲示板に貼られた紙に目を通し、あまり騒がれていない「生徒会選挙」の
内容を食い入るようにみつめる。
カバンを脇に挟み、両手をポケットに突っ込んだ格好はどこか様になっているから不思議だ。
目が悪いので若干上体を前に倒し顔を近づけた。
「……」
柚木は専用の箱に何十部と入った校内新聞の1つを手に取ると階段へと向かった。

勢い良くドアを開ける。
だが、教室には誰もいない。
時間は7時。
8時SHR開始の男子校で、補修もないのにこんなに早く来るアホはなかなかいない。
開成では席は決まっていない。
柚木は窓際の一番後ろの机に上にカバンを放り投げた。
カーテンを開け、窓を開ける。
ガガガっと音を立てて椅子を引くと座り、足を組んだ。

校内新聞を開くと見出しは掲示板に張られた部分だ。
新聞部が見出しだけを大きく引き伸ばし掲示板に張ったのだろう。
「…騒がれないわけだ……」


生徒会選挙 
生徒会長立候補 3−E 伊達啓介


「1人か…」
しかも、立候補はあの伊達先輩。
アユム先輩たちが頭の上がらない人物…。
争おうなんて、3年の中には誰1人いないのかもしれない。

開成での生徒会選挙は3回にわけられる。
まず入学式のすぐ後に生徒会長の選挙が行われる。
副会長は決まった新会長の推薦枠と、立候補からなる。
推薦には最初から補助票が入るので、大体は推薦者が通るのだが
ごくまれに、それを抜く票を取る副会長も現れる。
2回目はその副会長選挙。
3回目に残り役員を決定する。
それが全て4月のうちに終了し、5月連休後から活動を再開する。

開成での生徒会選挙は3回を通して全て異様な盛り上がりを見せる。
開成では生徒の自主性を尊重し、教師陣は全てサポートという形でしか動かないのだ。
全てのイベントや校則など、全ては生徒会にゆだねられる。
故に、生徒会のカラーがその年の学校にこれでもか!!!!!ってほど反映される。

「まぁ…伊達先輩なら文句ないか…。ん?まてよ…」
じゃぁ、副会長の推薦枠は誰だ??