「腕章配るぞー」
先生の声に、選ばれし生徒(生贄)はわらわらとその周りに集まった。
場所は開成学院高等部、体育館の中のステージ前。

「…っしょと」
「お、校章入ってるじゃん。凝ってるなぁ」
自分の左腕についた腕章を見ながらまんざらでもなさげに頷く。
「よーし!設営はあと2時間でやってしまうからなー!
案内と受付はちゃんと上級生から説明受けて、放送は放送室に移動して打ち合わせやれよ」
先生の言葉に「はーい」といたるところで返事が上がる。

「じゃぁ、僕は行きますね」
聖はじゃぁとニコやかに体育館を後にする。
「よーし!久遠!!やるぜー!!!」
「おうよ!!!!」
おー!とこぶしを突き上げる二人を見て今期3年の面々が声を上げて笑う。
「面白いの選んだな、竹石たち」
「やる気あって良いんじゃねーの」
「よーし!設営集まって!椅子出すぞ!」
一番人数の多い設営が一箇所に集まる。
その中心には前年度経験がある先輩が数名立っていた。
「3分の1は会議室行って長机持ってきて」
「はーい!何個ですか??」
「えっと…」
鉛筆の後ろで頭をかきながら設営後の完成図を取り出す。
「ココと…ココ。……6個だな。重いから気をつけて。
えっとね〜そうだなぁ。じゃぁココから右の子たちお願いして良いかな?」
区切りのラインを空中に引き、そのラインから右の子達を見る。

「案内!」
「受付こっち来て」
各係りの3年が声を張り上げる。

「案内って5人か」
柚木が集まった顔ぶれを見渡した。
3年が1人に対し、2年が4人。
「2人は校門にたってもらうから、車で来た人には駐車場所と体育館を教えてあげて。
残りは迷った人がいないか軽い巡廻とかをしてもらうから」
ハッキリ言って一番面倒です。



「で、こうなるのな」
桜の木が茂る門前に創始と柚木はいた。
門から左右に壁に沿って桜の木が植わっている。
「ま、いいんじゃねーの」
言って柚木が腕時計に目をやる。
「そろそろ1年も寮を出る時間だな」
昨日、各寮に振り分けられた後、その寮の寮長から「明日は10時に学校に着くよう」
と言われていたのを柚木は聞いていた。
入学式は11時半からだ。
創始たちは8時半に学校に集合していた。
今の時間は9時半。
「ま、花見でもしながらさ。気長にまとうぜ」
「…だな」
髪を揺らすほどの強さで風が吹くとハラハラと花びらが落ちていく。
それを見上げながら2人は車が通るのを待った。


「じゃぁ、この原稿を今打ち合わせた時間区切りで」
「はい」
放送室に2人。
去年経験した先輩と、そして聖。
聖は放送ブースから見える外を見ながらニコリと笑う。
門へ向かう創始と柚木の姿が見えたからだ。
それを見て先輩が「あ〜案内の子、友達なんだね」とつぶやいた。
「案内に2人はきついかもね」
そう苦笑する。
自分は最後まで放送をしなければいけないのだから、あそこに手伝いにはいけない。
けど、多分。
設営を終わらせれば新平と久遠が駆けつけるだろうな。
「ギャー!!!重いー!!!!!」
「久遠潰されるなよ!!!」
廊下からにぎやかな声が聞こえ軽く苦笑する。
「何か…設営は盛り上がってるねぇ」
「馬鹿がいますからね」
「ば、馬鹿…?」
キョトンとする先輩に笑顔を向ける。

「もう1回チェックしませんか?」








新平と久遠。
2人は猛ダッシュで体育館を飛び出した。
「勝ったらジュースゥゥゥゥゥ!!!」
「ポッキー!!!!!!!!」
同じタイミングで角を曲がり階段を駆け上がっていく。
どうやら会議室にどっちが早く着くでしょう!と賭けをしているらしい。
「コラ!廊下は走るな!!!」
すれ違いざまに教師から叱られ、ダッシュは競歩へと変わった。
目指すはこの廊下の先にある会議室。
「勝ったー!!」
ほぼ同時に声が重なる。
そして2人の視線が重なる。
「ど、同着かぁ…」
「ジュースはお預けだな、久遠」
二人はニッと笑うと、長机に飛びついた。
まずは机をたたむことをはじめる。
そうこうしていると他の机メンバーも会議室へと到着を済まし
どんどん中へ入ってきた。

「早すぎる、お前ら…」

「新平、早く終わらせて創始たちと花見やろー」
「おうさ!」
2人は「せーの」と机を持ち上げた。