春の麗らかな日差しはカーテンをすり抜け部屋へと音も無く侵入する。
2つの机を挟み両端にあるベットは同時にもぞっと動いた。
「……」
「う゛―…」
時間は午前10時。 外は賑やかだ。
向かって右のベットから上半身が伸び出て、机の前にある窓に手が伸びる。
まだ眠そうに目を瞑ったまま、手はカーテンを開けた。
一気にさっき以上の光が部屋へと差し込む。
「……ぁんだよ………まぶしぃ……」
左のベットに眠る久遠は毛布を頭いっぱいまで被ると壁のほうへと寝返りを打った。
創始はベットからどうにかして抜け出ると窓から外を見下ろした。
見たことも無い顔がたくさん。
数え切れない人数の人間がわらわらとうごめいている。
「………何だ、こりゃ…だれだ、ありゃ……」
ふわぁと大きなあくびをかます。
見るとその人の群れの先に見慣れた顔をいくつも見つけた。
その人物はマイクを手に持ち、もう片方の手でポンポンと音が入るか試しに叩いている。
そして口元へと運んだ。
「あーあー。はいはい。静かにーこっちしゅうごー」
軽いノリで手招きをする。
その手招きに誘われるように群れが動く。
「えーっと。新入生諸君、ようこそ開成高等部学生寮へ」
ちょっと偉そうにアユムが胸を張った。






「おはようさん」 まだ眠い目をこすりながら食堂に向かうと柚木がコーヒーを飲んでいた。
食堂には丸テーブルがいくつか置かれており、5脚づつ椅子が置かれている。
「遅いお目覚めだな」
両手で開いた新聞を持ち、テーブルの上には一枚の紙が置いてあった。
「おはー」
久遠が柚木の隣に腰を下ろし、創始は向かいに座る。
テラスから中庭のほうを覗けばさっきのうじゃうじゃがまだいる。
「アユム先輩の声で目が覚めた…」
「ご愁傷様」
新聞をたたみ隣の席に置くと、柚木はもう一度コーヒーをすすった。
長い足を組み、右ひじを立てると、頬を支えるようにして頭を傾けながら庭を見る。
「なー柚木―。これなに?」
久遠は朝食セットを持ってくるとお盆をおろしながら席に着く。
そして目の前に置かれた紙に目をやった。
「明日の予定表」
「ふぇ〜」
箸を加え、紙を手に取る。
「あ、柚木と創始案内だ。俺はぁ…設営部かぁ〜」
どうやら担当場所が書かれているらしい。
「設営には新平もいるだろ。聖は放送部だ」
「で、その新平と聖は?」
牛乳を手に席に戻る創始が久遠から紙を受け取りながら柚木を見る。
「新平はそれぞれのクラスの成績優秀者のとこに行ってるよ」
彼らから春期休暇中の課題を借りコピーして落第者に売るのだろう。
創始は「あ、そう…」とため息をついた。
「聖は、明日の放送部の打ち合わせだって。さっき学校に行ったけど」
放送は原稿があるため打ち合わせ必須となっていた。
「今日も旨かったーv」
全てを食べ終えた久遠が両手を合わせ、空の食器が乗ったお盆に向かって「ごちでした☆」と一礼をする。
「ところでさ」
久遠が辺りを見渡し何かに気づいたように二人を見つめた。
「聖はわかったけど、他のみんなは?」
「……」
確かに。という様に創始も食堂を見渡す。
3人以外の姿は見当たらない。
創始が柚木を見る。
見られた柚木は腕で支えられていた頭を上げ、上半身を背もたれへと預ける。
「俺の優しさに感謝しろよ」
やれやれと溜息をこぼす。
「新平、聖………」
創始の嫌な予感は的中した。
食堂に涼しい風が入ったかと思うと、それはテラスへのガラスドアが開かれた合図だった。
「思った以上に人手が足りん」
進が顔を出す。
「そこの暇人3人!さっさと出てきなさい!」
マイクを通したアユムの声が食堂まで響く。
「昨日の約束はぁ〜?」
「ナシ」



「みんな逃げたなーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」