「学ランが着てみたい」




今はお昼。
いつもと同じようにこの日も久遠と創始が迎えに来て購買部に走った。
買ったパンと飲み物を手に今日は保健室。
開成にはお昼を食べれるようなスポットがたくさん存在する。
部活の部室で食べるやつあれば、中庭の噴水広場で食べるやつもいる。
各階にもうけられた主館と別館をつなぐ渡り廊下にもベンチが置かれていて
そこで食べるやつらもいる。
俺らはだいたい屋上に行く。たまに教室や保健室、なんて事もあるけど。

「…」
聞こえた。
聞こえたけど、俺は聞こえないふりをして手に持っていたコロッケサンドを食べ続けた。
創始も黙々とサンドイッチを食べる。

「学ランが着たい!!!」
ビリビリ!!
さっきよりも大きめの声とともにアンパンの袋が開く音がする。
「なぁ〜ゆひ〜ほうひぃ〜」
大きなアンパンを口いっぱいにほおばりながら俺たちを見る久遠に、創始は目を合わせようとしない。
「ゆひひゃん!!」
「食ってから喋れ」
うん!とモグモグ口を動かす。
ゴクン!!
「だーかーらー」
喉を通した途端かい。
「学ランが着てみたいんだって!!俺!!!」
「しらねーよ」
「だってさ、うちって中等部からブレザージャン??
中等は紺だけど…。学ラン着てみたいだろ?!!」
なーなー!!と同意を迫られ、俺は椅子ごと後ろにひっくり返りそうになった。
椅子が倒れないように背後の机に両肘を置いてなんとか体制を保っている。
「く、おん……どけ…落ちる…こける!!!」
「どいてやれよ…」
俺にまたがるように迫っている久遠を、創始が背後から羽交い絞めにしてどけてくれた。
「あ、ごめんごめんv」
ごめんじゃねーって…。
「第一な…、その学ランをどうやって調達するんだよ」
俺はコロッケサンドを机の上に置くと、代わりにパックのお茶を手に取った。
「コスプレショップとか?!!」
「何万もかけてお前は1日の満足を得たいのか?」
う…と久遠の言葉が詰まった。
「外部入学のやつで学ランだったやつ探すとか!!」
「…中学と高校じゃサイズ違うだろ」
「あーもう!!!じゃぁどうしろっていうんだよぉぉぉ!!!」
もひゃー!!!と叫ぶ久遠に俺たちのものでない声がかかった。

「そんなに着たいのか?」

保健室の主、冴木光二。
まだ24とこの学校で一番若い教師だ。
「着たい!!」
「俺の高校の時のがあるぞ。まぁ、磨耗にはちょっとでかいかもな」
はははっと笑う姿は白衣を着た生徒にしか見えない。
次の瞬間、久遠は光二君に迫っていた。
しかも、目を輝かせて。

「着る!!!!!!!!!!!!!!!!」



光二君に明日学ランを持ってきてもらう約束をした久遠をつれて
俺たちは保健室を出た。
「着てどうするんだよ?」
創始がるんるん♪で歩く久遠を見る。
そしたら、こいつ…とんでもないことを言いやがった。

「一日それで過ごすんだよ。あったりまえじゃんvv」

「……は?」
「せっかく着るんだぜ?写真撮るわけないじゃん。
過ごさなくっちゃ!!楽しみだなぁvvナイスだ光二君」
「ば、バカか!!お前はバカか?!!っていうか、バカだろう!!!」
立ち止まり久遠の両肩をガシッと掴む。
「…柚木、失礼だな」
真顔で返され俺の頭はガクンッと下がった。
「いくらうちが自由に近いとは言えな、他校の制服で堂々と一日過ごせると思うか?!」
「思う。っていうか着る」
久遠は笑顔でぐっと握り締めたコブシを高々と掲げた。
「れっつちゃれんじ♪」

「あ…あ…」
「柚木…」
創始の声も耳に入らない。


「あほかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」